されど馬走る――第50回報知オールスターカップ

 ボートの賞金王決定戦有馬記念東京大賞典を筆頭とする地方競馬の年末重賞に競輪グランプリ、そしてラストの一発スーパースター王座決定戦まで。そりゃ坊主だって走り出そうって塩梅の12月も、財布に穴が空いたり空かなかったりしながら騒々しくも終わってしまった。とすればさすがに新年早々、三箇日くらいは競馬場のモチ撒きで貰ったやつでも喰いながら静かに過ごすのかと思いきや、この正月というものは公営競技にとって絶好のかき入れ時ということになっている。当然競馬の方も、大晦日に高知の記者選抜ファイナル戦で本年の高知競馬最弱馬――そいつは間違いなく日本国の現役競走馬で5指に入る駄馬だろう――を決定してから15時間もたたないうちに、もう名古屋競馬場でその年最初のレースを馬たちが駆けていく。縁起良く午年の今年も、365日いつでも日本のどこかの競馬場で馬が走っている風景は変わらない。じつにありがたいことである。

 しかし恒例となった川崎正月開催での催し物レース、第50回報知オールスターカップが開催された昨日1月3日はちょっと異常な一日だった。そもそも、正月開催の非日常性が川崎競馬以上に感じられる場はちょっとほかにない――弥彦で初詣と初打ちをいっぺんに、というのも面白そうなのだが冬期は開催がないんだな――。JR川崎駅を東口から出たならば、川崎大師行きのバス乗り場を知らせるのぼりがこれでもかというくらい掲げられている。堀之内を歩くのは嫌なので市役所方面から回り込もうとすると、交差点の大歩道橋から箱根駅伝の選手を心待ちにしている人だかりを眺めることに。場内は1万5000人近い客入りと大盛況で、パドック脇のコロッケや焼きそば屋はおろか自動発売機にもけっこうな行列がレース毎にできていた。岩手競馬よろしくジャンボ焼き鳥や雑煮も臨時で店を出しては賑やかで、大師から出張ってきたさらし飴屋も気前が良くって面白い。なによりこの日は父ちゃんに連れられた子供の姿がとても目立ち、パドックで肩車をされながら馬を眺めている姿が昔の自分を思い出してなんとも懐かしかった。まあ、こういう大人にはあまりなってはいけませんがね。そして、東京大賞典を回避した南関東のA級馬に兵庫最強馬オオエライジン・目下金沢競馬3番手のジャングルスマイルが対決、という一部の筋にはたまらない構図もこの賑わいを一層高めたことだろう。

普段からこうしたイベントには目敏い誘導馬に乗るお姉さんらは、例年通りの振り袖姿。
 ところがこのハレの日の1レースから、いきなり3頭が絡む落馬事故が発生してしまう。ここで酒井忍騎手が頸椎骨折を含む大怪我を負ってしまい、メインの(腐っても)ダービー馬サイレントスタメンは瀧川騎手に乗り変わる。第9レースの3歳戦でも、パドックでも文男を振り落とすなどいかにも問題児なところを見せていたブルーインパレスが、案の定ゲートを突き破って放馬。満員の客の目と鼻の先で、直線をじつに気持ちよさそうに走ってくれた。しかも、ようやく発走したレースの方は1番人気の笹川翼騎手騎乗・ヴァサーロが1コーナーで故障・競走中止というおまけ付き。極めつけとしてUターンラッシュのお世間様を騒がせた有楽町での火災による東海道新幹線不通の煽りで、メインの遠征馬に騎乗するはずだった下原理・平瀬城久両騎手が競馬場に辿り着けず。それぞれ張田京内田利雄騎手に乗り変わり、ただでさえ難しい他地区所属馬の取捨がさらに悩ましくなってしまった。

乗り変わりでも、なぜか騎手の所属表示は変わらず。どういうシステムなのだろうか……
 それでも1番人気に推されたオオエライジンだが、ソラを使う癖は相変わらずだけに仕掛けどころが難しい馬である。ならば直線抜け出たところを強襲されるとして、先行集団のすぐ後ろから仕掛けてくるスターシップあたりにもチャンスがあるのではと考えた。それにインがいい馬場からして、エミーズパラダイスがべったり逃げて回ればそのまんまということも。よって、馬券は13の単に枠の4-8。自宅でそこまで決めていたため、この客入りでは下手すると買い損ねるなと思い馬券を買ってからパドックへと向かう。スターシップは今年で10歳だけあってすっかり真っ白の馬体だが、まだまだ老け込んだ雰囲気ではない。遠征のオオエライジンはというと、黄金色のたてがみ含めてなんとも派手な馬体である。なるほど、目付きからいってもこりゃまさしく園田の悪童といった趣だな。返し馬でも煩いところを見せてはいたが、まあ最低限は折り合ってくれそうな雰囲気だった。

14年報知オールスターカップ。7.0-11.0-12.5-14.2-13.6-13.9-13.9-11.5-12.3-13.8-13.2(2:16.9)
 だが、終わってみればこのレースには勝ったオオエライジンのほかにもう一組の主役がいたらしい。昨年の羽田盃馬アウトジェネラルと、ついに南関東リーディングを獲得した御神本訓史騎手のコンビである。鞍上の方は昨秋来の不調から先の川崎開催でようやく立ち直り、ここでもスローで進むレースを自ら仕掛けて動かしていく納得の騎乗を披露した。吉原騎乗のスターシップ、ピンクのジャングルスマイルあたりも慌てて追いかけにかかったのだが、彼らに2馬身という着差以上の力の差を感じさせたアウトジェネラルの走りも立派。JDDや総の国OPでもレースぶりからあのまま低空飛行を続けるものと思っていたので、この復活は驚きだけれどじつに嬉しい。そしてそのアウトジェネラルを、ハナ差凌いだオオエライジンもまた評判通りの素晴らしい馬である。思えば昨年の年末、年が明けるやすぐに南関東移籍の報が飛び込んできて仰天したもの。けっきょくは様々なトラブルによって一度も出走しないまま兵庫所属に出戻ってきたが、その走りは以前通り、いやそれ以上の充実を見せている。新年は心機一転、今年こそは順調に使われ、統一グレード競走でも凌ぎをを削ってもらいたい。