雑感

 荒尾競馬場最後の日が終わった。主催者によると、この日の観客数は普段の10倍以上となる9000人を記録。あの有名なとんこつラーメン屋にも大行列ができるほどの混雑ぶりだったとのこと。こうなると「ふだんからこれくらい入っていれば・・・・・・」などという怨み言が聞こえてきそうであるが、肝心の売上のほうは1億232万8800円と、観客数のわりには伸び悩み気味。まあ初めて来た競馬場でそれほど張り込む人がいるはずもなく、ここまでの平均が7000万円ほどだから決して悪い数字ではない。なにより、競馬場が賑わいを見せるのはいつだって素晴らしいことだ。

 それでもふと、このことについて考えてしまう。先週の土曜日、同じ九州・小倉競馬の1R。この牝馬限定・2歳未勝利戦の売上は1億3855万3300円だった。さらに、本賞金の総額は955万円。この数字は、それだけでこの日行われた荒尾競馬全レースにおける賞金総額の4倍に近い。荒尾競馬場を廃止へ追いやった累積赤字は約14億円だが、先週行われたGⅠ・朝日杯フューチュリティS単体が吐き出す純益だけで、計算上はこの全額をやすやすと補填することができる(まあ、JRAもかなり台所事情は苦しいが)。……もちろん、この格差は必ずしも不公平というわけではない。JRAは日本競馬の頂点を形成しており、長年にわたってそれ相応に集客の努力を続けてきた。一方で荒尾競馬場は時代に取り残されサービスの方もピンぼけ気味、そんな本当にちっぽけな田舎競馬に過ぎないのだから。そして日本競馬最果ての地である荒尾競馬場が潰れたところで、おそらくJRAへのしわ寄せなどはほとんどないだろう。むしろ認定競走分の補助がなくなるだけ、JRAとしてはいくらか儲け物かもしれぬ。JRAには、荒尾競馬についてあれこれ気にかけるような義務も義理もありはしない。

 中央と地方の関係が取り立たされるたびに繰り返される「中央と地方は根本から成り立ちが違う」という、二重体制を肯定する呪文。ああ、確かに違うさ。あえていうなら、地方競馬の方が、中央競馬より100倍面白い。それでも、同じ日本の競馬だろう。東京競馬や阪神競馬があるのと同じように、日本には大井競馬や園田競馬がある。それぞれ賞金の額やレベルは当然違うが、いい歳した大人どもが馬のかけっこの順番当てなんぞに頭を抱えて悩みあげ、ああだこうだと一喜一憂して騒ぐ。そんなじつに馬鹿げた営みが、日夜繰り広げられていることに違いはないじゃないか。そしてそこに馬が走っている、という事実の持つ単純明快な素晴らしさ。この糞面倒くさい世の中にあって競馬を続けていくために取りうる最善の道は、本当に現体制のままでひたすら耐え忍ぶだけなのだろうか。

 今はまだ、その答えはみつからない。ただやみくも「改革」ばかりを叫ぶだけでは、現状維持にすら劣ることも十分に承知している。そもそも一介のファンに過ぎない私が、さも偉そうにあれこれ考えてどうなるようなことでもなかろう。もっと優秀で内情に通じた関係者が、必死に知恵を振り絞り行動に移しているものと推測する(というより、頼むからしていてくれ)。だが今日、私の愛する「日本競馬」からまたひとつ競馬場が姿を消し、その永遠の別れを告げていった。この事実の持つどうにもならない重苦しい響きが、とうに酔いが回りきったはずの私の頭をぐるぐると巡り、なかなか離れてくれはしない。