東京大賞典を前にして

 突然だが、あなたが押しも押されぬイギリスの大手ブックメーカーの社員であったとしよう。配属先は「スペシャルオッズ作成課」、普通のギャンブルにはもう飽き飽きしたのか、はたまたたんなるきまぐれかは知らないが、全国各地から送られてくる「俺の思いついた賭けを受けてくれ」という突拍子もない案件に対して、適切な倍率を考えてやることがその仕事だ。さて、アンディ・マリーがかの不名誉なるウィンブルドン現象に終止符を打ってくれた7月も始めのこと、やれ2039年までにジャコバイトの王が連合王国王位に返り咲くかどうかだの、エリザベス女王がじつはハギスが大好物であることが3年以内に公表されるかだの、おおよそ一時の酔狂に任せて小金を放り捨たくてたまらないという体の案件の中に混じって、次のような依頼があなたのもとへと届けられた。曰く、「2013年12月にオオイで開催されるトウキョウダイショウテンにて、地方競馬所属馬が5着以内に入る倍率は?」と。大陸の向こうっ端で開催されているの競馬でのこと。そもそも地方競馬っていったいなんだという気分だが、さあ、これにはいったいいかほどのオッズを提示したものだろうか?

13年帝王賞:12.6 - 11.8 - 12.8 - 12.9 - 12.3 - 11.9 - 11.9 - 12.3 - 11.9 - 12.6(2:03.0)
 どうにか数字をひねり出してから時は流れ、帝王賞が6着まで中央所属馬の独占に終わった7月時点でつけられた倍率は、おそらく現時点では顧客側からするとかなり旨いものとなっているはずである。といっても、それは別に地方競馬側にとっておきの秘密兵器が登場したというわけではない。単純に中央競馬の出走枠が6頭のところ5頭しか埋まらず、しかも実力5番手のサトノプリンシパルくらいなら、まあ地方側にもどうにか負かすことができようというだけのこと。挫跖明けのカキツバタロイヤルや追い込み一辺倒のプレティオラスあたりが、実力を如何なく発揮できるかというとまた微妙なところではあるが……さらにはベルシャザールが早々にドバイ行きを表明したことで、ジャパンカップダートの勝ち馬はこれで08年のカネヒキリ以来5年連続出走がないことに。公営競馬最強馬、さらには日本ダート界最強馬を決める年の瀬のグランプリ、という気分もこれではイマイチ盛り上がりに欠ける。せっかくTCKがテレビCM以下でPRを進めたところで、オルフェ―ヴルという金看板がいた有馬記念とは違い興行面でも苦戦を強いられてしまいそうだ。

 まあこんな状況ではあるが、馬券の方はワンダーアキュートに期待を託すとしよう。毎年毎年律儀にも、ジャパンカップダートから東京大賞典へローテーションを組んでくれるのはありがたい限り。前走は出来過ぎた面もあるけれど、この馬場・このコースなら今度こそ。相手にはホッコータルマエ、説明は不要と思うので省略。つまるところはあの4頭をどう組み合わせるかだけであり、こんなもんはもはや思い入れで決めてしまってよろしい。いや、競馬ってのは本来いつだってそうあるべきなのだな。そんなことよりも、日本も早くブックメーカーを認めてやって、こういうレースではトウホクビジンの着順やプレティオラスの上がり3ハロン順位なんかで、賭けられるようになってはくれないものかね。いや、本場イギリスでも実際にはそんな条件で受けつけちゃいないんだろうけれども。

13年全日本2歳優駿:12.4 - 11.0 - 12.1 - 13.6 - 12.3 - 12.6 - 13.8 - 12.6(1:40.4)
 とにもかくにも、来年こそは南関東地方競馬から中央競馬と王道路線で渡り合える馬が登場することを切に願っている。さっそく、現時点で世代筆頭のハッピースプリントがクラシックのみ南関東へ転入してくるということが先日発表された。ここで距離がこなせるようなら、一挙に期待も高まるというもの。ぜひとも故障などすることなく、順調に使ってもらいたいものだ。

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<まとめ>
◎4番ワンダーアキュート
○5番ホッコータルマエ

トウホクビジンは6着
プレティオラスは上がり3F3番手