日韓交流競馬に関してぐだぐだと(1)

 さてさて、ソウルくんだりまで行ってきましたよ第1回日韓交流競馬。しかし関東に現存する6競馬場はもちろんとして、高知、金沢、名古屋、門別、水沢、園田。私もここ数年でずいぶんとあちらこちらの競馬場を巡ったものなのだけれど、まさか競馬で海外まで行こうとは思わなんだ。まあ、ここでの第一の問題は私が飛行機が苦手ということ。その制約を逆手にとって最大限に愉しむために、鈍行列車をひたすら乗り継ぎ、神戸から新門司行きの夜行フェリーに乗る。小倉競馬場を朝一でちょいと冷やかしてから、博多港からの午後の高速翼船便――本来は歴史的に倣って関釜航路をとりたかったが、諸般の事情で断念した――で釜山入り。翌朝のKTXでいざソウルへ、などというまことに遠大な計画を建てていた。いやはや、飛行機なんて乗らなくたって、こんなにも完璧かつ愉快な旅行日程が作れるじゃないかね。……と一人気色悪くニカニカ悦に入っていたのはいいのだが、さあいざ出発しようという段になって台風で博多・釜山航路が運休した。

 穏やかな夜の瀬戸内海。引くか進むか悩み続けること幾時間かは知らないが、偶然乗り合わせた陸自の方々が隣の大部屋で愉しく宴会をやっているのが静かになるくらいには悶々と。結局、断腸の思いで福岡空港から仁川へ空路をとることに。しかし、エンジンの音がでかくなればどこかが悪いのではないのかと考え、小さくなったらなったで停止寸前に陥ってるのではなかろうかと悩み出すような馬鹿は、やはり飛行機になど乗ってはいけない。あんまりに挙動が不審だったのか、終いにはアテンダントのお姉さんが頼んでもないのに水を持ってきてくれた。はた迷惑な話である。ハイジャック犯と間違われたらどうするのか。さらには当日になって予約した宿への道がさっぱりわからず、ソウル駅西側の狭い路地裏を彷徨うこと1時間半。なぜだかおばさんから怒鳴りつけられたが韓国語はわからないから無言で逃げ去り、道を歩く人を認めると「そーりぃー、ぃくすきゅーずみ!どぅゅのーほぇわ○○○ぃず?お〜ぅ、そーりぃ!」と中学生以下の英語をおかまいなしに浴びせかける。まったく、ほんとに残念な野郎である。

一番手前で売っていたというだけで選んだ競馬新聞『자올벙마』表紙。馬の顔写真は右から順にタフウィン、トーセンアーチャー、ビックガリバー、ファイナルスコア。背景は李氏朝鮮の王宮・景福宮内の名所である香遠亭だが、何か意味があるのかね。
 というわけで前日からすっかり疲労困憊してしまったので、第1レースの発走が13時と遅かったのはありがたかった。さて、今回の日韓交流競走の舞台となるソウル競馬場は、ソウル駅から地下鉄4号線で20分ほどの距離にある。「競馬公園駅」という名にふさわしく、駅の改札を出てから流れに乗って右手に向かうと、地下の内からもう競馬新聞のスタンドがいくつも見える。値段は立っている幟には1000ウォンとあるのだが、いざ買ってみるとマーク用のサインペンがついて3500ウォンとの説明を受けた。新聞の脇に予想だけが印刷された紙切れも置いてあったので、もしかしたらあれが1000ウォンなのかもしれない。形は金沢や岩手で見られるような冊子式で、B2版――という表現は正しいのか?1ページがB4大――に日本でいう馬柱が横書きでレースあたり各2ページ、それに加えて調教・状態欄がまるまる1ページずつ裂かれている。さらには現地購入への特典なのだろう。各地の地方競馬場でもたまに見られるように「当日予想」が赤ペンで書き入れられていた。また中には売り子が予想屋も兼ねているらしく、大声で大いに口上を述べては周囲にかなりの人数を集めているスタンドもある。ちなみにここで競馬新聞を買わずとも、地下鉄の地上出口にかけてでもやはり何人かが立っていて盛んに声を上げて新聞を売っているし、場内にも新聞スタンドはちゃんとあった。ただし、場内は中央のように各紙一括でひとつの売り場が扱っている。

競馬新聞(1)予想印は▲がなく、◎が2つに○・△・※の5頭。持ち時計・持ち上がりの分析も細かい。ただし、予想はあんまり当たってなかった。

競馬新聞(2)調教欄。△に縦横の線などを組み合わせて調教内容を示し、過去2走と今回の日ごとの臨戦過程を表記している(んだと思う)。この書式は実にハングル的発想で面白い。
 そして、この競馬新聞がまたたいへんによくできている。日本の競馬新聞の情報密度は確かにすさまじいものがあるが、こと情報量については韓国の競馬新聞の方へ軍配が上がるのではないだろうか。例えば日本の場合、レース全体に関する情報は馬柱内に勝ち馬(2着馬)と機械的なS・M・Hペースしか書かれていない。これが私は常々不満だったのだけれど、韓国の競馬新聞では各レースの7頭分の馬名と着差があり、さらに3・4コーナーの位置取りも併記されているので展開が非常にわかりやすいのである。欧州では競馬新聞の中心を占めるレースごとの短評も、たった2行ではあるとはいえきちんと設けられていた。ただ、もはや世界中の競馬予想で当然のように用いられているスピード指数が、まったく見られないのは意外だったか。直線の長さに起因するスローペースがやっかいではあるが、それでも競馬場の数と開催日数は少ないが距離設定は豊富なダートコース、という韓国競馬の条件は、スピード指数が活きるのには最高に近い条件なのにね。もちろん、好事家の中には使っている人もいるのだろうけれど。

ソウル競馬場・蹄鉄型の正面ゲート。ここから実際の入場口までは左右に屋台がずらりと並んでいる。
 地下鉄駅から地上に出て小さな橋を渡ると、よく分からないオブジェに迎えられていよいよ競馬場の中へと入っていく。場内は飲食店がそれほど多くない――韓国系資本のGS25とかいうコンビニと、定食屋が数店あったくらいか――ので、市内の同種のそれと較べると少々割高ではあったが、ここから続く屋台通りで食料を調達するのも悪くないか。入場料は失念してしまったが、なんか小銭を数えた記憶があるので中途半端な金額だったのだろうと思う。回数券でもあるのか、券を買わずにそのままもぎりのお姉さんの方へ向かっていく人たちも目立った。

入場口を中から見る。老若男女幅広くけっこうな客入り。

入ってすぐ目に入る旧スタンド。ただし1階以外には英語の案内すらほとんどないので注意。

4コーナー側にある新スタンド「Goodluck なんたら」内。ガラスと吹き抜けが多用されており、L-WINGに近い構造。

すり鉢型のパドック。手前側には簡易イスが備え付けられている。分かりにくいが、パドック奥の緑の中に見える白いのは人工の滝。

スタンド2階席からコースを臨む。
 競馬場の施設は、すでに多くの方々が述べられているように非常に立派。またハード面だけでなく、日本の競馬場と較べても足下がとても綺麗なのが印象的だった。場内は喫煙所以外は全面禁煙なのだが、その旨のタスキをかけた兄ちゃんらがそこら中に配置され周知を徹底している。実際、屋外のベンチで隣のじいさんがタバコを吸い始めるや、すぐさま飛んできては喫煙所へと誘導する光景に何度もでくわした。さらには日本と違ってハズレ馬券を投げ棄てる文化もそれほどない様子である。競馬のイメージアップという意味では、こういうところがしっかりしているのは大きな強みになるだろう。まあ、つばを地面に吐き捨てるおっちゃんもいましたけどね!

旧スタンド観戦席側。昼を過ぎると、手前の芝生には家族連れがシートを引いてお弁当を食べていた。

リアルタイムで投票数とオッズを映すターフビジョン。最上段から単勝複勝・馬複。馬券の売り上げは馬複が全体の約半分、3割弱が三連復。以下、馬単複勝単勝、ワイドと続く。三連単の発売はない。

一応、日本語での案内もある。現行版の投票カードでは開催曜日をマークする部分が追加されていた。流し・フォーメーション(のようなもの)もできる。

ボケボケで分かりにくいが、オッズプリンターではなく過去のレースのリプレイ機。これはぜひとも日本にも欲しい。
<長くなったので続く>