Racing Post ブックメーカー、Harriet Harmanの非難に怒りの応答

元URL: http://www.racingpost.com/news/horse-racing/association-of-british-bookmakers-bookmakers-react-angrily-to-harriet-harman-attack/944436/racingbusiness/

 この記事のカテゴリは閲覧有料につき、全訳はさすがにちとまずい。なので要約すると、ブラウン政権下で王璽尚書(さすが英国……)と女性・平等担当大臣をつとめ、現在は労働党でいわゆる「影の内閣」首相の職務あるハリエット・ハーマン(1950〜)が、「問題の多い地区を占拠するブックメーカーの店舗は暴利をむさぼり、多くの家庭を貧困へと突き落とす。そして社会保障とギャンブルに依存する状況を生み出すことで地域社会を破壊している。目抜き通りに立ち並ぶ店舗はイメージ悪化にも繋がっている」という趣旨で演説。それに対して、英国ブックメーカー協会(Association of British Bookmakers)側が雇用や経済への利点を挙げて激しく反論した、というもの。ちょっと調べれば、一般紙での報道も結構出てきます。

 とりあえず、イギリスも日本と大して変わらんよなぁ、というのがこの話の実感ですね。どこの世界にも、バクチと聞けば条件反射で叩くような潔癖症の人間はおるわけで。本邦でも、美濃部都知事が教育主婦層の票欲しさで都営ギャンブルを全廃、なんてことが実行できる環境がかつてはあった。今でもJRAが場外を建てるといえば反対運動が巻き起こるし、直近では園田のナイター実施が地域住民と活動家の反対で延期なんてのも。まあナイターで売上が上がって儲かるかは確かに疑問にせよ(この点に関しては、反対派の議論は非常に有用だ)、今の園田で治安悪化が懸念されるような動員ができてりゃだーれも苦労はしてないって。

 もっとも先に挙げた美濃部と同じく、職業政治家たるハリエット・ハーマンは、当然そこらの主婦と同じレベルでブックメーカーを叩いてるわけではない。そもそも、ブックメーカーはバクチの上がりで儲けるという、証券会社も真っ青になるような虚業型サービス産業である。その原点である「賭け倍率ををつける」という知的営みには確かに非常に専門的な技能を要するが、大手ではかなりの部分でシステム化されており裁量権は限りなくゼロに近い。そのくせ、大手のladbrokesWilliam Hillともなると株式上場するほどの大企業で、社員もかなりの高級取り。さらにここ数年で大手ブックメーカーのインターネット部門(当然、大成長部門だ)は、賭博産業への課税が低いジブラルタルなどへ次々とオフショアしていった。リーマン・ショック以降、金融のような三次産業へ感情的な非難が集まる中で、これは低所得者向けの票を得るのにじつにわかりやすい攻撃対象となり得る。

 さらには、ロンドン暴動でにわかにクローズアップされた「社会保障におんぶだっこ」な人々の問題。貧困の再生産にバクチが関わるというのはなるほどありそうな話であって、日常的に世の中を憂う(だけで終わる)ミドル以上の方々にも、ブックメーカー叩きは非常にいいアピールだ。

 当然、そんな政治判断で好き勝手に叩かれるブックメーカーはたまったもんじゃないが、まあすねに傷があるのも事実であって、雇用ぐらいじゃどうにも反論としては弱い。大手ブックメーカーはそれまでの個人経営店を叩きつぶし、「官僚的組織」で業界から利益をむさぼっている、とはかつて賭博産業界内でも上がった声だ(これは、パブを巡る同国内で議論に似ている)。さらに、Betfairが牛耳るベッティング・エクスチェンジの問題もある。「負け」に張れるというその性質は、バクチの健全性を巡るもっとも古典的な批判のひとつ、八百長を再度世に問うこととなってしまった。「健康的であるべきスポーツで、自分の負けに賭けて八百長をする」という状況を可能にしてしまったのは、少なくとも政治的には失敗であろう。

 今後、この業界を巡る議論がどのような方向に発展していくのか、注視していきたいところである。