語られることのない、サンデーサイレンス産駒最高記録

 遅ればせながら、9月に高知競馬・別府真司厩舎所属のサンデーサイレンス産駒、アトンが登録を抹消していたことに気がついた。

 実はこの馬、幾多の名馬を抱えるサンデーサイレンス産駒の中でも、恐らく2位以下をぶっちぎっての(※1)不倒の大記録を持っている。ついでに言うと、同世代のサラブレットの中でも間違いなく1番だ。えっ、そんな馬聞いたこともないって?よろしい。では、まずはこの戦績をご覧いただこう。

 ……いかがだろうか?デビューが2000年の「4歳」未勝利(なんと、まだ旧表記だ!)、そして未勝利のまま4歳一杯を持ってあっさり地方へ転出。瀬戸内海と四国山地をひーこら越えて、高知競馬くんだりへと行かされるはめに。ひとまずは順当に勝ち星を挙げることができたため、その夏には早々と南関東競馬で本州復帰を果たす。一時はC1まで昇るも次第に頭打ちになり、結局2005年には高知へ出戻った。以降は高知競馬一筋で、今年の7月まで走り続けることはや6年。通算出走回数238回也。同じく高知競馬所属で16歳まで出走という日本記録を持つオースミレパードには劣るにしても、14歳まで現役を続けたその健脚振り(と、馬主のがめつさ)は素晴らしい。当然、エリート中のエリートたるサンデーの息子・娘らの中で、ここまでの無茶使いを受けた馬は今のところ他にはいない。もっとも、最後の方は記者選抜戦でさえとてもじゃないが買えそうにない、単なる数合わせ要員と化してはいたのだが。

 ちなみにこの馬、母ニュースヴァリュー(父Seattle Song)は94年の札幌スプリントSで2着したそこそこの活躍馬なのだが、これがなんとベガの一つ年上の半姉なのである。中央時代の馬主も社台RHであり、おそらくこの血統ならばそれ相応のお値段で募集されたことは想像に難くない。だけれど、デビュー戦ですでにセン馬。よっぽど問題のある馬だったんでしょうね。

 そんなアトン君も、ようやく長い現役生活を終えた。たんなるサンデー産駒の中の劣等生で終わるはずだった彼も、このような偉大な記録を残して逝くことができた(残念ながら、まず乗馬になどなってはおるまい)のだ。世の中、なにがどう転じるかわかったものではない。平々凡々と日々を過ごす我々凡夫に、そんな小さな希望を与えてくれたと言えよう。

 ちなみに中央・地方併せて残り14頭となった現役サンデーサイレンス産駒だが、現役最高齢は2001年生まれのデュヴァル(今年11歳)。こちらは2009年まで中央1000万下で走っていたので、ご存じの方もいるのでは。最近は高知競馬に所属していたが、10月からかのホースケア様に買い上げられ、岩手競馬に移籍している。もちろん長く走るのが馬の幸せとは限らないのだが、どうせならこちらにも是非、偉大な先輩の記録更新を狙って貰いたいものだ。

※1 と、書いたのだけれど、ちょっと調べたらロイヤルキャンサーが中央で12歳まで現役(ただし、出走は11歳時のキーンランドCが最後)だったようです。失敗失敗。

カンパ→ 乞食100