第33回岩手ダービー・ダイヤモンドカップ

 「絆は、人と馬を強くする」とは、岩手競馬の今年度のキャッチコピーである。そこに込められたメッセージとは、東日本大震災を受けて2年間使われた「がんばろう東北 心をひとつに岩手競馬」から一歩前進し、ひとつになった絆を糧に力強く踏み出していこう、といったところだろうか。かつての廃止危機の際には、借金があまりに大き過ぎて潰すと構成団体もまとめて財政再建団体送り、などという too big to fail を先取りしたような理由で存続していた岩手競馬であるけれども、あの大震災の後は地方・中央の垣根を越えて競馬がくれた絆のおかげで、繋いでこれた今の今までの開催継続、という新たな意味づけが生まれている。実際、津波で跡形もなくなったテレトラック釜石の写真を見て、ああこりゃどさくさに紛れて岩手競馬もなくなるかもなぁ、と考えた人も多かったはずだ。あの荒尾ですら4レース分の収益をまとめて義捐金に充てたくらいだし――なお、翌年から累積赤字を3セク債で処理するのが不可能になるのを理由に、荒尾競馬はこの年を最後に廃止されている――、問題は未だに山積みだろうがそうそう簡単に諦めて貰っちゃ困るというのが正直なところ。このキャッチコピーは再び岩手競馬から全国へ、強い人と馬を送り出すのだという意志表明として受け取りたい。

 ……とまあ、前置きが長くなったがダービーウィーク第2戦目は、みちのくが誇る盛岡競馬場にて行われる岩手ダービー・ダイヤモンドカップである。ダービー格とされてまだ歴史は浅いが、歴代の勝ち馬は岩手3冠――これがまたコロコロ変わるんだ……――を達成したセイントセーリング・ロックハンドスターを始めそれなりに粒が揃っている。是非ともここから世代を、岩手を代表するエースに名乗りを挙げて欲しかったのだが、今年は昨年の2歳最強決定戦・南部駒賞の上位3頭が全馬道営からの遠征馬で占められてしまい当然ここには出走せず。牝馬ながら金杯を制したブリリアントロビン、同一馬主でスターからその名を受け継いだロックハンドパワーの両頭も回避してしまい、結果落下傘的に転厩してきたリュウノ軍団2頭にさえ下手すれば足元を掬われそうな情勢である。これでは、いささか勢いに欠けるメンバー構成となってしまったのは否めまい。岩手は路線整備・賞金額そのどちらにおいても2・3歳戦にかなり力を入れている主催者なのだが、一方でその全国的な位置づけは劣化道営・劣化南関東程度に甘んじつつあるのではないか。一目見て、そんなことを思わずにはいられないダービーの出走表であった。

12.6-12.0-13.8-13.2-12.2-13.0-12.2-12.8-14.7
 さて、今回中心になりそうなのが、七時雨賞に代わり今年から再びステップの座に返り咲いたやまびこ賞からの参戦組。勝ったハカタドンタクは盛岡向きのタフさがある馬で、最後の坂を登り切ってからさらに着差を広げる強い競馬で逃げ切ったのは見事というほかない。冬期に美浦・尾形厩舎で過ごしたのが功を奏したのか、2歳時よりもかなり成長した様子だ。混戦のここでも頭一つ分は力が抜けていると見てよいだろう。2着のハワイアンリゾートも、あの流れなら沈んでしまってもおかしくない中粘って2着を確保した。もっとも、これは後ろからの馬が坂でぱたりと止まったのがふがいなかっただけとも思う。それでも前々走の一般戦では2着に1秒差以上つけての楽勝で、格付けだけ見るとここでも完全に無視とはいかない。それよりは今回唯一の東北・青森県産馬トーホクノホシの方が、坂をものともせずにぐいぐい内を伸びてきての3着と見所があったか。とはいえゴール板前ではもう一杯一杯で、あの流れなら本来は2着までしっかり入れ替わって欲しいところ。まあ、脚質からして一発を期待するならこちらの方か。

12.0-11.6-11.4-11.5-14.0-14.5-13.0-14.8 ※大逃げ馬から2番手までの道中タイム差は1.5秒前後
 別路線からの参戦馬の中では、盛岡開幕日の3歳B1組・気仙沼レースを勝って臨むヴイゼロワンに注目したい。道営時代はカイカヨソウと差のない競馬をしたこともある馬だけに、本来はここでも格上のはず。とはいえやや順調さを欠いており、前走も相手を考えると最後もう1馬身ほど突き放して貰いたかったのが本音だ。2000mへの距離延長がどうでるかも未知数だが、可能性という意味ではもっとも面白い馬だと思われる。距離の不安ならば、2歳時の若駒賞ではハカタドンタクに先着しているヴェルシュナイダーも、前走のラップは
12.3-12.7-11.7-13.4-12.2-11.9-13.6-16.1
と、3コーナーからかなり速い流れになったことを考慮しても終いがあまりに掛かりすぎている。そこそこ人気しそうなここは、ひとまず蹴った方が妙味がありそう。はまなす賞ではハカタドンタクに迫ったコウギョウデジタルも、一本調子のスピードタイプだけに盛岡の2000mに変わるのはあまり歓迎できないだろう。
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<まとめ>
◎3番ハカタドンタク
○11番ヴイゼロワン
▲1番トーホクノホシ
△7番ハワイアンリゾート