馬肥ゆる秋、その間半刻

 まずは、15時15分。岩手・盛岡競馬場では二歳最強馬決定戦、南部駒賞が発走。


 中央の1000m戦で先行2着の実績にふさわしく、スタートからヘブンズパワーが軽快に飛ばしていく。すぐさま5馬身ほどのリードが、2番手につけたアスペクトとの間に生まれた。アスペクトの方も3番手エスプレッソには差をつけており、さらにその後ろも4番手までは3馬身ほど間隔が開く。大きく縦長の展開である。

 最初に動いたのは、エスプレッソ。バックストレッチ終盤で仕掛け始め、アスペクトとの差を1馬身ほどに詰める。だが、アスペクトはもとより勝負付けの済んでいる後続など気にしてはいない。800を切ったあたりからすいっと前へとあがっていくと、エスプレッソなどはやはりついていくことが出来ぬ。むしろ無理をした分脚を無駄に使ったため、あとは後続馬群へとじりじり沈んでいくだけだ。

 さあ、勝負は前2頭に絞られた。アスペクトはコーナー最中、半馬身差ほどでぴったり追走している。これならアスペクトは十分勝負圏内。が、インをスムーズに回った桑村に対して、外を追走していた山本は、ほんの少しだが外に膨れる!一瞬の隙を見逃さす、ヘブンズパワーは坂を駆け上がってアスペクトを突き放した。これはさすがに勝負あったかと思われたが、盛岡はラスト200のラップが大きく落ち込むタフなコースである。元々暴走気味で駆けていただけに、ここまで粘っただけでも十分驚嘆に値するくらいなのだ。直線半ばで3馬身まで広げたリードが、凄まじい勢いで縮まっていく。そしてゴール板の一歩前、2頭の馬体が重なったと思うと、僅かにアスペクトが前に出る。計ったように、そこが決勝線だった。

 
 15時25分。ばんえい帯広にてA1・2組戦が発走。


 本来ならば、これはメインであるレディースカップの前座でしかない。だが、このレースは一昨年のばんえい記念の覇者、ナリタボブサップにとって半年振りとなる復帰戦である。彼の名は、ばんえいは年に一度のばんえい記念しか買わないという、にわかというのすら恐れ多い自分でも知っているくらいだ。当然、この日馬体重は100キロを超える大幅減だったにもかかわらず、単勝1.3倍の圧倒的支持を集めていた。

 その支持に応えるように、第二障害を3番手で越えたナリタボブサップは一気に加速。先行するミスタートカチをあっさり競り落とすと、後続に1馬身半差をつけ悠々逃げ切りを図る。だが差し手のイッスンボウシが猛追し、残念ながらゴール直前で差されてきわどい2着か・・・・・・と思ったら、完全にゴールしきらないところで止まってしまっているではないか!再び動き出す間に続々と追い抜かれ、復帰戦は悔しい7着。三連単は40万馬券の大波乱の結果である。

 15時40分、中央競馬京都競馬場牝馬最強決定戦、エリザベス女王杯の発走。


 今回も英国から、昨年の覇者スノーフェアリーが参戦。今年は欧州の牡馬一線級と互角の戦いを繰り広げ、充実度では昨年以上とのこと。堂々の一番人気となった。このあたりはさすが、中央競馬は世界を相手にした競馬であると痛感させられる。

 しかしまあ、逃げるのはわかっていたにせよ、シンメイフジがあそこまでの大逃げを打つとは誰も思っていなかっただろう。スタートから飛ばしていき、あっという間に20〜30馬身差をつけた。当然、ファンの脳裏にはあの光景、3年前のクィーンスプマンテテイエムプリキュアのあっと驚く逃亡劇が浮かぶ。あの時は3番手が日本競馬に慣れぬスミヨンで、彼が後続のペースを落としたことが原因だった。今回の2番手は、ホエールキャプチャ池添謙一。さあ、どうか。

 ・・・・・・1000m通過タイムは、37.5。明らかなオーバー・ペースだ。大丈夫、これなら後ろが追いつける。と、ほっと胸をなでおろす。

 直線に入った時点で、シンメイフジのリードは10馬身ほど。だがもはや余力は残っておらず、勝負の行方は後続の追い比べにゆだねられた。内からホエールキャプチャ、外から併せてアパパネアヴェンチュラ。さあ、この3頭のどれが抜け出るか!と思った瞬間、その間からスノーフェアリーがひょこりと顔を出したと思うと、楽々と先頭に踊り出る!ただただ、強い。

 海外馬による平地G1連覇は当然史上初となるが、なんでも来年も参戦の可能性があるとのこと。さすがにホームで3連敗は避けたいところだがなぁと思いつつ、どうにも勝てる気がしない自信喪失っぷり。アンニョイになるのも仕方ない、実に見事なレースだった。

 15時45分。エリザベス女王杯が終わるやいなや、あわただしく金沢競馬に目を移す。ダート2600mの長丁場、北國王冠の発走だ。


 下馬評からして、目下金沢古馬トップのジャングルスマイルが、3歳最強ナムラダイキチに対してオータムスプリントの雪辱を果たせるかの一騎打ち、というのがもっぱらの評判だった。一応、順調なら2頭を負かせる強さを持っているナムラアンカーもいるのだが、ここは彼には明らかに距離が長すぎる。

 最初から、上記の3頭以外は勝負圏外の模様。逃げるジャングルスマイルに、ぴったりマークするナムラの2頭。2週目に入ると案の定、ナムラアンカーはずるずると脱落していく。さあ、やっぱり勝負はこの2頭のデッドヒートだ。直線、腕っ節で押し込んで交わしにかかる外・中川雅之、風車ムチで粘りこみたい内・吉原寛人。どちらも必死に追っているというのに、不思議と2頭の差はほとんど変わらない。最後の最後まで併せたまま、実力伯仲もここまでとは驚きである。

 3着につけた差は、ゆうに2秒を超えている。2頭がゴールしてから3着馬が映るまでの「間」で、妙なおかしさがこみ上げてくるくらいである。まさしく、この2頭のために用意された舞台だったのだなぁ。

 16時ジャスト。佐賀競馬のメインレース、天山特別の発走。このレースは12月佐賀で開催されるオッズパーク・グランプリのトライアルであるだけでなく、怪我でクラシックを棒に振った3歳最強馬、ウルトラカイザーが始めて古馬の一線級と対戦するレースでもあった。とりわけ、元南関重賞ウィナーで現在も佐賀A級有力馬の1頭であるマンオブパーサーは、試金石にしてはなかなか骨っぽい相手。


 もっとも結果からいってしまえば、まったく危なげない大楽勝だった。差を詰めようとするマンオブパーサー以下を楽々突き放すと、あっという間に5馬身差。最後は流してしまうほどの余裕っぷりで、1着賞金1000万円の大一番への代表権を勝ち取った。ラブミーチャン・エーシンクールディという地方競馬の中でも一流どころが遠征を表明しているだけに、次の戦いは苦しいものになることは間違いない。だが逆に考えれば、一挙に全国区に名乗りをあげるチャンスということにもなる。いったいどんな走りを見せてくれるのか、まったく今から楽しみではないか。

 さて、この間わずか半刻ばかり。いやはや、そんな短い中でこれだけ濃いレースを立て続けに見られるとは。もっとも、さすがに疲れてくるのも事実である。よし、ここはのんびりと打てる高知競馬で、リラックスして一日を終えようではないか。赤岡騎手の2000勝も見られたなら、本当に最高の一日だろうしな。

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 ……そして、私は3000円負けたorz(まあ一日合計では南部駒→エリ女転がしが効いてプラスでしたが)。赤岡も、今週は1999勝で打ち止め。だけれどまあ、昨日(いや、もう一昨日か)は本当に素晴らしい一日でした。ここまでいいレースが続くのは、はなかなか珍しいことですね。しかもどのレースも、それぞれの競馬場の楽しみが詰まった一戦ばかり。秋とともに、競馬もいよいよ充実してきた趣がありますな。

 ただし、残念なことがひとつだけ。これらのレースを全てリアルタイムで楽しめたのは私のような在宅派だけで、本場にいたファンはその興奮と引き換えに、他のレースを見るすべをほとんど持たなかったという点だ。とりわけ昨日のような日の場合、まったくこれは競馬の楽しみにおける機械損失もはなはだしいとしか言いようがない。

 
 となると期待したくなるのが、ここ数年NARによって着々と準備が進められてきた共同トータシステムだろう。自分の知る限り既に高知と笠松には導入されていたのだが、この船橋開催から南関東でもシステム切り替えが行われた。さっそく、後楽園に立ち寄り新マークカードを貰ってくる。見て分かるように、北は門別・帯広から南は荒尾まで全国の地方競馬場がずらり。実際のところは中継の都合や予想情報の提供(特に、紙ベースの専門紙)、そして売り上げ分散の問題から開催中の競馬場はどこでも、ということにはならないのだろうが、なるべく主催者間で日程をすりあわせ、せめてA級戦くらいは全国で発売して欲しいものである。そうすれば、岩手からの転厩馬を見て、「なあ、この盛岡ってどこだっけ?」「あー?たしか北の方だ、北海道だろ」とかのたまふ馬券親父どもの日本地理リテラシーの向上にも、多少の貢献はできるだろうし。

 さらには、新システムの絡みで12月からは川崎競馬場中央競馬の馬券を売ることになる。ついで来年度から地方競馬のグレード競走を中央競馬のPATで発売することが開始されるなど、今後も両者の販売チャンネルの統合が進んでいくだろう。もっとも、府中の岩手競馬場外がどんな混雑時でも座れる穴場スポットと化しているのが現状である。システム改修のコストをかけてまで、中央が本場やWINSで地方の馬券を売ることはありえないだろうが。

 個人的には将来、JRAの馬登録・免許管理部門と競馬施行・研究部門を切り離し、前者をNARと統合しオール・ジャパン体制を確立できないか、などという妄想を日ごろ行っている。現状でも十分有用なシステムではあるが、それぞれの施行者がある程度の独自性を維持しつつ、併売・人馬の交流を今以上に進めるような体制が実現されたときにこそ、この新・トータはその真の力を発揮する。どうか、さらなる改革を期待したい。そして、私の老後まで競馬が残っていてくれれば、と切に願う。

カンパ→ 乞食100