プレイアンドリアルについて、なんかもにょる

 いや、まあ正直参りましたよ。ほんとに舐めてました、すいません。

 2戦のキャリアだけにわからんところがあったといえばそうなのだが、道営でのスーパー認定新馬(通常150万円の1着賞金が200万円)の楽勝は上がりや時計がそこまで飛び抜けているわけではなく。芝に変わった盛岡ジュニアグランプリも、そりゃ盛岡の直線坂を登り切っても後ろがまったく迫ってこないくらいに脚が残っているのはいい内容だが、どちらかといえばダート向きの相手が多いあそこでの評価はなんともねぇ。時計的にもボスアミーゴあたりの代と較べると見劣りし、明日の南部駒賞ならいざしらず中央の重賞ではきついだろう……と思っていたら、あらあらびっくりかなり強い競馬で惜しい2着と大健闘。最後半馬身ほどの差からクビ差まで再び持ち込んでいるのも立派であり、盛岡での走りといい坂を苦にしない力強さに今の府中でも通用する軽さ、そしてなによりも最後まで真面目に走る気性の良さは完成度が高い。今回は岡田総帥の相馬眼が見事に正解だったようで、なるほど今後は芝で大きいところを狙えるかもしれない馬だな。

12.7-11.4-11.7-11.8-12.0-11.9-11.6-11.2-11.6(1:45.9)
 さて、今後プレイアンドリアルは川崎・河津裕昭厩舎へ転厩した上で、中山の朝日杯2歳Sを目指すとのこと。まあ、ホッカイドウ競馬は先日の道営記念をもって冬期休催へと入っているので、転厩それ自体はとりたてて不自然というわけではない。だが問題は、明らかに芝馬のこの馬をなぜ中央ではなくわざわざ南関東へと持ってくるのか、という点であろう。コスモバルクの場合は認定馬房として通常の調教にビッグレッドファームを使用していたため、所属は至近の競馬場である門別とせざるを得なかったという事情がある。しかし、今回の転厩では鉾田トレセンの認定馬房――河津調教師は父の代から岡田氏とつきあいがあり、南関で唯一同トレセンに認定馬房(6つ)を有している――を使用することになるはず。ご存じの通り、ここは美浦所属のラフィアン馬が外厩として普段から利用している施設だ。とするならば、どうせ中央の芝で使うなら美浦の調教師に預けた上で、同じようにこちらで調整を行えばいい話ではないか。いったいどうして、わざわざ南関東に籍を置く必要があるのだろうか。

笠松所属の安藤勝己騎乗・レジェンドハンター(5枠9番)が1番人気に押された99年朝日杯。
 中央の芝で通用する地方所属馬というのは歴代けっこうな数がいるが、代表的なところでいくとロツキータイガーやジュサブロー、トミシノポルンガレジェンドハンターあたりはまあダートの余技のようなもの。某競馬ゲームではなぜか馬場適性が芝となっているライデンリーダーだって、ダートで地元重賞を楽勝しているのだから本来は十分どちらもこなしている範疇に入る。ブラウンシャトレーはダート・芝の別なく地元東海地区に中央・南関と戦い続けて3億円近く稼いでいるし、明らかに芝の方がよかったタマルファイターやボスアミーゴにしても地元のダートでコツコツと走っていた。異色なのは盛岡でのデビューからほぼ一貫して芝を使われ続けたネイティヴハートだが、まあ盛岡の芝コース自体が「この競馬場から中央の芝で通用する馬を」という理念の元に用意された舞台でもあり。またこの馬を愛していた馬主の池田草龍氏が、中央競馬馬主資格を有していないという事情もあったのだろう。

 こうしてみると、コスモバルクという馬はやはり少々毛色が違う。地元のダートではデビュー以来4戦2勝、それが芝への遠征で一変。当然この馬主ならば中央へ転厩するのかと思いきや、上記の内厩制への疑問と外厩制を御旗に地方所属に留まり続ける。その後8歳の有馬でのラストランまで43戦を消化して、地元のダートで走ったのはたったの2回だけ。そのうち1回はセントライト記念への選定レースである北海優駿で、2戦目が6歳時の旭川・瑞穂賞。だが北海優駿では0.1秒差と中央クラシック2着馬としては物足りない着差しかつけられず。後者に至っては当時の道営最強馬ギルガメッシュはおろか、同年の道営二冠馬ブルータブーにすら完敗するという屈辱的な結果に終わっている。その後、地方ではもっぱら盛岡芝の交流戦を走るだけになるが、これすら8歳のころにはコスモヴァシュラン――なお、当然ビッグレッドからは手放されている――に大敗するという体たらく。中央への挑戦もいつしか枠の無駄呼ばわりされるようになり、それでも毎度のごとく今回こそはと吹きまくる岡田総帥への一部のファンの目はいつしか冷え切っていった。あげくは謎のアイルランド挑戦の表明、そしてその矢先での故障引退。もちろん栄光も数多い名馬ではあるのだが、どうしても馬主に振り回された感が強いのを否定できる者はおるまい。

2007年瑞穂賞。この次に道営でファンの前に姿を現すのは、ついに引退式のその日までお預け。
 ましてや、バルクの時代と異なり今や外厩での調整はすっかり当たり前となっている。べつにいまさら「厩舎制度」への疑問うんぬんで、プレイアンドリアルを地方所属で置いておく意味など皆無である。さらに、この馬の場合川崎所属といっても朝日杯へ向かうなら全日本2歳優駿は当然スキップするだろう。そして陣営の予定通りにことが運ばれたならば、日程がほとんど被っている南関東のクラシック戦線にも姿を見せることはまずあるまい。これではいったいなんのための地方所属なのか、ますます意味が分からなくなる。

 結局のところ、バルクの時よりさらにあからさまな形で、耳障りのよい「地方の怪物」といったフレーズを、自己の都合のよいように利用しているようにしか現時点では感じられない。東京優駿はあくまで中央競馬のダービーである。これを勝つには、やはり中央競馬に所属した上で争うのが王道と私には思えるのだが。さらに言うならば、ハイセイコーからオグリキャップへと至る、ミヤコへ登っての立身物語を受け止める土壌はもはやこの社会から薄れて久しい。また、かつてのように他地区の重賞勝ち馬さえなかなか知り得なかった時代と異なり、現在では日本中の地方競馬場の情報を容易に入手でき、馬券を購入することができるようになった。netkeiba.comでは比較的中央競馬地方競馬が並列に扱われているし、昨年から始まった中央競馬のPATでの発売により、競馬雑誌なども含めてひとまず選択肢として地方競馬がディスプレイされる環境も生まれている。もはや中央競馬という檜舞台に頼らずとも、われわれは地方競馬場で走っている地方競馬のスターを捜すことができる、そんな時代に生きているのである。そして、これからの地方競馬とはまさしくそうあるべきなのだ。無理矢理演出された、地方出身のスターホースなどが地方競馬の振興にいったいどれだけの助けとなるのかね。そこで人々が消費する物語の舞台は、あくまで中央競馬のターフの上での出来事だ。地方のダートなんぞは、せいぜい子供時代の砂場遊び程度にしか思われないのがオチであろう。

2010年から始まったGRANDAME-JAPANのキャッチフレーズは「ロジータ再び」。

中央所属馬とはいえ、スマートファルコンのヒールっぷりと覚醒後の圧倒的な強さは実に魅力的だった。
 と、ここまで偉そうに書いておいてなんだけれど、馬主なんてのは基本的に伊達と酔狂でやっているもの。だから好きなようにすればいいってところに、最終的には行き着いてしまうのよな。それなりにリスクは負っているわけだし。そもそも、こんな完全にできあがったファンがブー垂れるのを一々気にするよりは、どんなにわかでも新しいファンを今すぐ呼べるような手の方がありがたいにはきまっているのだろう。それでも、なんだかなー、と感ずにはいられない、深夜3時のもにょり体験でありました。