第80回東京優駿(日本ダービー)


 節目となる80回目の開催ということで、JRAの宣伝広報にもこちらがいささか辟易するほど力が入っていたからだろうか。天候に恵まれたとはいえ、今年のダービー・ディの府中競馬場は近年希に見る混雑ぶりを見せていた。ふだんは南関東競馬に入り浸っている私からすると、客層の若い中央はただでさえ苦手な空間である。さらには競馬場や距離の種類があんなもあるものだから、志の低い博奕打ちである私にはもう難解すぎて手に負えない。ダービーを見に来たはずなのに、さっさと101投票所(岩手競馬専用場外)へと退散することにした。しかし、いつもはG?開催日であっても閑散としているここですら、今日は迷い込んだ素人さんらが途切れることなく通り過ぎていく。彼らの期待がどっちの方面に向いていたのかは皆目検討がつかないのだけれども、結果的に今年のダービーは、その歴史に書き加えられるにふさわしい名レースとなったはず。果たして、満足してお帰りになられたのだろうか。

 15時10分発走の岩手競馬第6レース、単勝3.6倍を持っていた馬が人気薄にしっかり差し切られたのを見届けたあと、いよいよダービーの馬券を買いに出る。予想はというと、コディーノ単勝にフラムドグロワールとの馬複の2点。スタンドの前は、とっくの昔に芋洗いのごとく観客で埋め尽くされており、手すりによじ登っているアホまでいる始末。当たり前だがそのタイミングからまともな場所が確保できるわけがなく、最初から内馬場で観戦する算段である。自分は中央競馬から遠ざかって久しく、今年初めての中央の馬券がこのダービーであったくらい。あの熱狂の中にいるとどうにも引け目を感じてしまうので、少し遠くから眺める方が気楽でよかった。まあ、あの超満員のスタンドがざわめき叫ぶ様を見るのは、それはそれで存外に面白い体験。自分が中にいると醒めた目でみてしまうファンファーレでの手拍子も、いざ見る側にまわってみるとなかなかに壮観だ。来年は、あっちにいられる程度には中央競馬を見てみようかね。

 レースの方だが、見所は3着に粘ってヒモ荒れを演出したアポロソニックを筆頭とする、先行勢のレース運びだろう。スタート直後から、戦前の宣言通り逃げようとするアポロソニックに、同じくトライアル逃げ切りで駒を進めてきたサムソンズプライドが外から被せ、熾烈なハナ争いを展開する。結果的にペースが上がり、いくら高速馬場とはいえ最初1Fが12秒前半、2F目に至っては10.5と過去にもそうそうないハイペースとなった。対して3番手のペプチドアマゾン以下は好きに行かせてペースを落ち着かせたのだが、ここでの穴男・勝浦の腕が冴え渡る。コーナーを回り始めたあたりですでにペースを落としており、バックストレッチに入る頃にはハロン12.8まで減速に成功。府中の2400mを逃げ切るにはあそこで息を入れるのが最善手で、あのまま行けばサニーブライアン以来となるダービー逃げ切りVすらあり得た見事な逃げ馬の御し方だった。しかし、クィーンスプマンテエリザベス女王杯よろしく、G?ですらろくに動こうとしない騎手が多い昨今の風潮に反し、藤田騎手騎乗のメイケイペガスターが立派に鈴付け役を買って出る。結果坂があるために本来は落ち着くことが多い6F目で11秒台まで加速し直してから、再び一息いれる谷型変速ラップの展開に。結果的には粘れず11着に沈んでしまったが、このおかげで、レースがさらに面白くなった。ここのところは勝ち星にも恵まれず、暴露本まで出版して引退秒読みの感がある藤田騎手だが、ここはしっかり見せ場を作ったと言えよう。

近年の府中2400mラップ表
12.3 - 10.5 - 12.2 - 12.5 - 12.8 - 11.9 - 12.7 - 12.3 - 11.9 - 11.6 - 11.7 - 11.9 2:24.3(2013年ダービー)
12.5 - 11.1 - 12.1 - 12.0 - 11.9 - 11.8 - 12.4 - 12.9 - 12.8 - 12.0 - 11.8 - 11.9 2:25.2(2013年オークス)
12.8 - 11.0 - 12.0 - 12.3 - 12.1 - 12.1 - 12.2 - 12.0 - 11.9 - 11.7 - 11.5 - 11.5 2:23.1(2012年JC)
12.8 - 10.8 - 12.0 - 11.7 - 11.8 - 11.7 - 12.2 - 12.4 - 12.3 - 11.7 - 12.0 - 12.4 2:23.8(2012年ダービー)
12.8 - 11.7 - 11.9 - 12.3 - 12.0 - 12.7 - 12.9 - 12.0 - 12.2 - 11.2 - 11.3 - 11.9 2:25.2(2011年JC)
12.6 - 11.3 - 12.2 - 12.7 - 12.8 - 13.5 - 13.1 - 12.9 - 12.4 - 11.3 - 10.8 - 11.3 2:26.9(2010年ダービー)
12.7 - 10.5 - 12.0 - 12.0 - 11.8 - 12.2 - 12.1 - 12.0 - 12.0 - 11.4 - 11.4 - 12.3 2:22.4(2009年JC)

 そして直線に入ってからは、横いっぱいに広がった追い込み勢が粘る先行馬に襲いかかっていく、府中競馬場としては最高に見応えがある展開となった。とはいえ基本的には前残りの結果で、大外から一気に伸びて1着となったキズナの強さは光る。それに特段見事な騎乗を披露したわけではないのだけれど、ああいう強い競馬を魅せてくれる時の武豊には、なんともいえない華があるものだ。こうなると、馬名があんまりにできすぎているのも許せてしまうから不思議なもの。一歩一歩騎手生活も晩年に近づいているだけに、彼に残った最後の未練だろう、ホワイトマズル以来の凱旋門賞との因縁をこの馬と晴せることを期待したい。エピファイアは蹴躓きながらもスムーズに流れにのったのは見事だったか、これで3戦連続終いに課題を残して惨敗した格好。こういってはなんだが、福永祐一という騎手がデビュー以来背負っている、宿命のようなものをまざまさと見せつけられた気分にさせられた。秋以降の成長に期待も、距離的に菊花賞が向くとも思えないが……。ロゴタイプも悪い展開ではなかったのだが、前走見せたキレからすると不本意な走りで終わってしまった。皐月賞がたまたま嵌まったたけなのか、この次が試金石となる。コディーノはスタートの出が悪かった上に、乗り代わりとなったウィリアム騎手とまったく折り合えていなかった。その割には健闘した方ともいえるが、弥生賞で狭い馬群を割って見せたガッツが悪い方に出たのは残念である。